銘菓の装い

ホーム > 銘菓の装い No.159 あんころ餅

あんころ餅

夢枕の味、今も

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 いつの間にか、松任市がなくなっていたのには驚いた。平成17年2月、松任市は周囲の2町5村と合併して白山市となったのである。俳人、加賀の千代女の故郷として知られた松任の地名が消えることは、余所ながら惜しまれる。
 かつては物産の集散地として栄えた商人町で、北国街道の宿場町でもあり、現在の国道8号線沿い、旧松任市成町あたりに旅籠、茶店などが軒を連ねていた。
 その成町に、元文2年(1737)創業の老舗がある。あんころ餅で有名な圓八だ。元文は8代将軍吉宗の治世で、たいへんに古い。代々圓八を襲名し、現当主の村山圓八さん(昭和22年生まれ)は11代目に当たる。
 「あんころ餅」の創製には、次のような話が伝えられてきた。
 「村山家二世のあるじが、何を思ったのか、裏庭に羅漢柏の苗木を植え、『わが願いがかなったら、大きく茂ろ』と深く祈り、翌日の夕方、妻子を残して行方不明になったという。妻子は生活苦に悩まされたが、その年の秋の真夜中、妻の夢枕に天狗になった夫が立ち、『私は京都の鞍馬山で天狗について修行している。今おまえに教えることがある。これこれの作り方で餅を餡に包んで食べれば無病延命、商売繁盛となろう』と告げて姿を消した……」(圓八の説明書より)
 ちなみに、羅漢柏とは、アスナロの木のことである。
あんころ餅は直径3センチほど、一口で食べられる大きさだ。これが9個、竹の皮に包まれているのがスタンダード。ほかに24個入りの箱などがある。
 箱の包装紙は小豆色の地に白抜きで、北国街道の宿駅の代表的な旅籠や茶店を紹介した道中記が刷り込まれたもの。道中記には、もちろん「休 村山や圓八」の文字も見える。包装を解くと、箱にはあんころの製造のさまが、職人図絵的なコマ絵で散らしてある。 
 竹の皮といい、包装紙といい、歴史ある街道名物の趣を今に伝える。しかし、昔の茶店の味、旅気分を味わわせてくれるのは、あんころ餅そのものだ。
 水は霊峰白山の伏流水。もち米はその清らかな水で育つ無農薬の契約栽培。餡は直火で煉るのではなく、皮を除いた生餡を高圧蒸気で1時間ほど蒸す。こうするとデンプン質が粒子のまま残り、さらっとした舌ざわりに仕上がるという。餅もやわらかければ餡もおいしくて、あっという間に9個くらいは食べてしまう。 
なるほど、昔懐かしい素朴な味わいだった。

文/大森 周
写真/太田耕治

圓八

白山市成町107
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