今年のアメリカの選挙では「ティーパーティ」というグループの活動が話題になりました。このグループは、1773年にボストン市民の一派がイギリス本国政府の茶税政策に抗議して、港に停泊していた東インド会社の船に積まれていた茶を海に投げ捨てた「ボストン茶会事件」にちなんだ保守的な一派でした。ボストン茶会事件はアメリカ建国の象徴的な出来事として有名ですが、一国の独立に茶が深く関与したわけで、茶というものの奥深さを感じさせます。
茶の木はツバキの仲間で、東南アジアが原産地。日本、中国、台湾、インド、スリランカなどで栽培されています。新しい葉を摘み、加熱乾燥して作る緑茶類、発酵させて作る紅茶(発酵茶)、その中間のウーロン茶(半発酵茶)に大別され、世界中で親しまれています。日本では、緑茶から煎茶、番茶、ほうじ茶、玉露が作られ、またさらに石臼で挽いて抹茶が作られます。飲み方についても、日常のお茶から茶道に代表されるセレモニーが発達しました。製品の種類の多さと飲み方が多岐に行われているという点で、茶は大変特殊な、しかも大変普遍的な飲料といえます。
茶の利用の始まりは中国で、茶が消化を助ける、口臭を消す、眠気を覚ますなどの薬効が見出され、栽培と利用が始まりました。
隋の文帝(541〜604)の時代に喫茶が始まったと言われており、当時は、茶の葉を蒸してからついて丸めて保存し、適宜、削って煎じる団茶という方法でした。漢方薬の飲み方と似ています。そして、ほぼ350年後の宋の時代には全国に行きわたり、緑茶が現れました。
日本には、遣隋使によって団茶の方法が推古天皇の時代に伝えられたと言われています。そして、鎌倉時代の建久2年(1191)、禅僧の栄西が宋から茶を持ち帰り、お寺の境内に植えるなどして茶の普及につとめ、『喫茶養生記』を著して茶の効用を説きました。将軍・源実朝(1203〜1219在位)が二日酔いの時、栄西が良薬として献上して大変喜ばれたという話が残っています。
茶の葉に多く含まれているカフェイン(テイン)は、中枢神経を刺激して興奮させる作用があり、これが眠気を覚ます作用をもたらします。また、疲労回復、利尿などの作用もあるとされています。さらに、生の茶葉にはビタミンCが多く含まれますが、緑茶にしてお茶で抽出すると、かなり減るので、お茶の葉をまるごと飲む抹茶はビタミンC摂取に有利な飲み方です。
茶の魅力は何といっても香りと味で、緑茶の甘味とうま味はアミノ酸によるものです。紅茶の場合、百種類近くの成分があの香りをもたらしていることがわかっています。
お茶は、菓子の原料あるいは菓子に色や風味を付ける材料としてもよく使われています。羊羹、饅頭、煎餅、餅菓子、汁粉など、その種類は多種多様。ケーキ類やアイスクリームなど洋菓子の世界にもどんどん使われているのを見て嬉しい気持ちになるのは、お茶好きの日本人だからでしょうか。
食文化研究者。大阪大学理学部化学科卒業、理学博士。ウスター実験生物学研究所(米・マサチューセッツ州)研究員、武庫川女子大学教授、同大学大学院教授を歴任。著書に『味の文化史』(朝日新聞社)、『食の文化史』(中央公論新社)、『パンと麺と日本人』(集英社)、『世界の食文化』(共編/農山漁村文化協会)ほか多数。