Nipponの歳時記

ホーム > 和のつく文化、和菓子と和食 No.223

和のつく文化、和菓子と和食


 2015年の夏、和食について考えさせられる出来事がありました。

 それは、南米ブラジルでのことです。私は文化庁から文化交流使を拝命し、和食の講演や交流会を各国で行っていました。ある日、日系スーパーで売られていた寿司に目がとまり、よく見ると海苔巻きの中に、あんことフルーツのグアバが入っているのです。試しに買って食べてみると、あんことグアバの甘みと寿司飯の酸味が混ざりあい、いちご大福に近いけれど初めての味です。まるで和菓子と和食がコラボレーションしたような、日本では経験したことのない組み合わせの寿司です。そのとき感じた違和感は大きいものでした。

 しかし、ブラジルにしばらく滞在し、現地の人や気候、味に慣れてくると、その意識が少しずつ変わっていきました。ブラジルは日系移民の長い歴史があり、日本でとれるような野菜が手に入り、現地で作られる醸造調味料などの食材も充実しています。町なかには日本料理店も多くあり、ブラジル人にとっても日本料理はとても身近です。その中で、あんこ・グアバ寿司は日系のお店で売られ、日系の方々がおいしく食べている料理なのです。日本の文化が当地の好みや風土になじみ、根付いていった食文化で、この寿司も和食の展開の一つだと気づかされました。

 日本もまた、海外からのたくさんの食文化を受け入れ、発展させて来ました。元々は、米や小豆も大陸から入ってきた食材ですし、中国から学んだなれ鮓の技術は、時を経て現代の握り寿司へと進化しました。日本人も海外の文化を日本の風土に合わせて、日本の独特のかたちに育んできたのです。

 和菓子と和食の共通する食の表現として、季節感が挙げられます。もちろん、海外でも季節はありますが、それを五感で感じられるよう表現するのが日本独自の食文化だと思います。例えば夏には寒天を使い、透明感のある水の流れを表現した和菓子があります。和食なら、ガラスの器にそうめんを流れるように盛りつけることで、涼しさを表現できます。

 形や食感、食材を工夫して作った一皿から、おいしさと共に四季の風情も感じてもらえたら、作り手にとって嬉しいことです。

イラスト

illustration by 小幡彩貴
菓子/「玉清水」鶴屋𠮷信

イラスト  

柳原 尚之(やなぎはら なおゆき)

柳原料理教室主宰。博士(醸造学)。NHK「きょうの料理」などのテレビ出演の他、NHKドラマ「みをつくし料理帖」や大河ドラマ「龍馬伝」などの料理監修も手がける。ライフワークは、子どもへの食育と江戸時代の食文化の研究。