Nipponの歳時記

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世界に広がる小豆文化


小豆

 和菓子は、長い歴史の中で育まれてきた日本を代表する食文化の一つである。和菓子に欠かせない小豆の独特の香りは、砂糖の風味と良く合う。砂糖による甘い味付けが庶民にまで広まったのは江戸時代以降だが、小豆に含まれるマルトールなどの香気成分が、茹でることにより醸し出され、独特の香りを発するのである。

 わが国では、小豆をはじめとする豆類は、一般に甘く味付けして食される場合が多い。一方、海外の国々を見てみると、豆を甘くして食するのはむしろ稀だ。いんげん豆やひよこ豆などを塩味やコンソメ味、トマトソースやチリソースとともに煮込んだものなど、世界各地でいろいろな味の豆料理が食されている。

 小豆は古くから日本や中国などの東アジアの国でのみ食されてきたため洋風の味付けをして食べられることはなかったが、洋風の食材との相性も良好だ。硬めに茹でた小豆の食感と風味はトマトの酸味と香りにとても良く合い、イタリア料理などで多く使われるバジルやオレガノ、セージ、パセリなどのハーブの香りともマッチする。また、トマトには、小豆にほとんど含まれないβ−カロテンやリコペン、ビタミンCが豊富に含まれており、小豆に多いビタミンB群と栄養成分的にも補い合い、最強の組み合わせとなる。

 小豆は英語でもAdzuki Beanと表記されるように、日本の伝統的な食を支える食材として、日本人の人生の節目を彩り、季節の移ろいを表現してきた。しかし同時に、新しい食べ方が広がる可能性も秘めている。味付けの発想を転換することで、どの国の料理ともマッチするはずである。

 北海道では雪解けの季節を迎え、明るい陽の光が降り注いでいる。長い冬の間、不足する緑黄色野菜の成分は、小豆とトマトの組み合わせで補うことができる。北の大地から新たな小豆の食文化が生まれ、世界中に広がる日もそう遠くないかもしれない。

イラスト

illustration by 小幡彩貴

加藤 淳(かとう じゅん)

数多くの著書や各種メディアで「あずき博士」として知られる研究者。
北海道立総合研究機構(農業試験場)などを経て、現在は名寄市立大学副学長(栄養学科教授)。主な著書に『最強のあずき力』(KKロングセラーズ)、『あずき毒出しスープ』(河出書房新社)などがある。