銘菓の装い

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志のおりべ

現代を超える伝統のおもしろさ

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 神田の岩波ブックサービスセンターで本を買うと、いつも本にかけてくれるカバーというか、包装紙がある。その絵柄が好きで、あるときなんの気なしに見ていると「梅原龍三郎装」という文字が小さく入っていて、驚いたことがあった。人は包装紙などでも、無意識のうちに見ていて、ひそかに好き嫌いを感じているのだと思う。
両口屋是清で戦後間もない頃から使い続けているという包装紙が、おもしろい。一見、石垣か何かのように見える不思議な模様は、聞けば袴腰といって、男子用の袴の腰板を表しているのだという。その袴腰が褐色で散らされた中に黄土色の楕円形のスペースが無造作にとられ、隷書体の「両口屋是清」の文字と「丸に両」の紋が白抜きで入っている。
銘菓「志のおりべ」は、上品な麩焼き煎餅で、20年ほど前に考案された。淡い黄と緑に染め分けられた箱に、飛ぶ鶴と亀甲模様、つまりめでたい鶴亀が墨絵で描かれている。箱を開けて現れるのが、名僧の描いた円相が入った和紙袋。袋に一つずつのお煎餅には二種類あり、一つは国宝志野茶碗「卯花垣」の模様をうつした志野風、もう一つは「吊るし柿」の模様と一角に緑釉をあしらった織部風である。
名古屋の老舗らしく、地元の誇る桃山古陶を意匠に取り入れたのだが、「志野織部」でも「志野おりべ」でもなく、「志のおりべ」としたネーミングが秀逸だ。
尾張藩二代徳川光友公から賜ったという両口屋是清の屋号、包装紙に用いられた袴腰。いずれも今でははっきりとした由来はつかめない。しかし、そうしたところにこそ、伝統が現代を超えるおもしろさがある。

 文/大森 周
写真/高木隆成

両口屋是清

愛知県名古屋市中区丸の内3丁目14-23
TEL 052-961-6811