銘菓の装い

ホーム > 銘菓の装い No.154 栗饅頭

栗饅頭

小倉みやげは勝栗

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 栗饅頭は今や、全国どこにでもあるお菓子である。しかし、九州・小倉の湖月堂ほど栗饅頭で名をなしたお菓子屋さんはないだろう。
 湖月堂の創業者小野順一郎は立志伝中の人物で、広島から小倉に出て菓子職人の修業をし、明治28年(1898)に独立した。その頃の小倉は日本有数の軍都であったが、小野はもって生まれた人物の魅力で師団長などに愛され、人脈と商才によってたちまち小倉の豪商の一人にのし上がったのである。
 「栗饅頭」は明治27、28年の日清戦争の折、勝栗の縁起にちなんで小野順一郎が創製発売し、一大ヒット商品となった。これも軍都ゆかりの商品だったといえよう。
 湖月堂の特異な点は、菓子のほかに食品や酒類の卸しを扱ったことである。この部門はその後、別会社として九州を代表する組織卸業として発展、代々の社長が兼営する独自の経営をしていく。
 小倉出身の作家松本清張は、子どもの頃から湖月堂のショーウインドーに憧れ、新聞社でデザインをしていた時代、この店のディスプレイを手がけたことを、終生ひそかな誇りとしていた。この一事からも、大正・昭和初期の湖月堂という店の華やかさは、おおよそ想像できよう。
 今、湖月堂は3代目、2代目小野精次郎の娘婿、本村道生さん(昭和8年生まれ)が継いでいる。
 さて、手にずっしりと来る25個入りの「栗饅頭」を開いてみよう。濃い紫色の包装紙には、白線の抜きで大小の月のマークがぎっしりと並んでいる。この湖月堂のシンボル・マークは、小さい方が天にある月、大きい方が湖に映る月を表したものだという。
 包装紙を解いて出てきた箱には、枝付きのいが栗の絵をあしらった掛け紙がかかっていた。濃い褐色の箱のふたをあけ、薄紙を開くと、ぎっしりと小判型の「栗饅頭」が詰まっている。見事な眺め!
 見た目にも皮の焼き色は栗そのもの。一つ口に入れてみると、皮と餡がしっとりと溶け合っておいしく、しかも後口が重たくない。いくらでも食べられてしまう。
 実はこの一文、「栗饅頭」にばかり手が伸びて、なかなか書くほうが進まなかった。

 文/大森 周
写真/太田耕治

湖月堂

北九州市小倉北区赤坂海岸3―2
TEL 093(541)0961
FAX 093(541)3756