和菓子探検

ホーム > 和菓子探検(9) 世界を魅了!金花糖とその仲間たち No.221

世界を魅了!金花糖とその仲間たち

 金花糖(*)をご存じでしょうか。砂糖と水を煮詰め、型に流して作る菓子で、動物や人形をかたどった可愛らしいものが、雑誌やテレビ番組で紹介されることがあります。

 特に注目されるのは雛祭の頃。金沢が有名で、鯛・野菜・果物形の金花糖を籠や台に盛った雛菓子が人気です(図1)。また、新潟県の燕市で、二月二十五日に行われる天神講では、天神や達磨、招き猫などの形の金花糖が供えられます。

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招き猫
(写真提供:萬年堂)
中は空洞。型抜き
してから彩色する。

 現在、北陸や九州北部ほか限られた地域のみで作られていますが、江戸時代には、白砂糖を使った高級品として、各地でもてはやされました。江戸幕府の御用をつとめた金沢丹後の菓子見本帳に鯛形の絵図が描かれていたり、禁裏(宮中)御用菓子屋の虎屋の注文記録に「金花糖仕立」の瓢箪形や鮎形があったり、史料がいろいろ残っています。鮮やかな色付けができ、落雁同様、型次第で大振りのものも製造可能なので、豪華な贈り物としても好まれたのでしょう。

 しかし白砂糖の入手がたやすくなるにつれ、その価値は低下し、小さめの平たい金花糖などは駄菓子の一種に。鯛や人形といった立体的なものを作る店も次第に減っていき、金花糖を見かけることは少なくなりました。

図 1,2

(右)図1 雛菓子の金花糖(写真提供:加賀藩御用菓子司 森八)
(左)図2 「金か糖」の絵図 「菓子図譜」より 東北大学附属図書館狩野文庫蔵
江戸時代の菓子見本帳に見える平たい金花糖。

図 3,4

(右)図3 金花糖作り(写真提供:萬年堂)
木型に砂糖液を流す様子。ご主人は江戸の金花糖の復活に努め、自ら製造。
(左)図4 歌川国貞(三代豊国)「誂織当世島(金花糖)」
江戸時代・弘化(1844-47)頃 静嘉堂文庫美術館蔵
金魚の金花糖を、もの珍しそうにのぞきこむ少年が愛らしい。

 一方で、金花糖のような砂糖菓子は日本だけでなく、世界各国に存在するのですから驚きです(図5〜8)。たとえばディズニー・アニメーションの「リメンバー・ミー」(二〇一七)にも描かれたメキシコの「死者の日」では、髑髏形の砂糖菓子が供物として使われます。この祭りはイタリアのシチリア島でも行われていますが、こちらは中世の騎士や村人をかたどった砂糖人形が伝統的。近年ではアニメーションのキャラクターも題材になり、時代の変化を感じさせます。

図5

図5 金花糖とその仲間たち(写真提供:溝口政子)
右から日本の2点(松/長崎県平戸市、天神/新潟県燕市)、シチリア島、メキシコ。

図 6,7

(左)図6 ブルガリアの砂糖菓子(写真提供:溝口政子)
(右)図7 シチリア島の砂糖人形(筆者撮影) アニメーションのキャラクターなども登場。

図8

図8 中国の糖塔(写真提供:王来華)

 砂糖人形はエジプトやチュニジアにもありますが、中国の場合、「糖塔」「糖供」の名で楼閣や馬、獅子などを表現したものが知られます。いずれの国も型(木型ほか)に砂糖液を流しますが、ルーツをたどると、はじまりは中東のようです。型流しの製法は十世紀にはエジプトに見られ、砂糖菓子作りの技法は交易やヨーロッパ植民地政策が進んだ十六世紀に広く各地に伝わったといいます。ヨーロッパ諸国の王宮での宴会では、食卓に人形や動物ほか多様な形の砂糖菓子を飾りました。砂糖の芸術品は富と権力の象徴で、贅沢の極みだったのです。しかしその技術が陶磁器にも応用されると、作り直しの必要がないため、陶磁器の飾り物が主流になりました。

 砂糖でできた菓子は溶けたり、割れたり、こわれてしまう儚さがありますが、色かたちもさまざまに世界各地で愛されてきたとは、感慨深いものがあります。そうした金花糖の魅力を伝えようと、所蔵の木型や実物を展示して紹介したり、新たなアート作品を創ったりする方も(図9)。いつか世界中の金花糖とその仲間たちを集めた展覧会が実現できたら素晴らしいですね。

図9 NEW金花糖 ENGIMONO-吉祥- 東ちなつ
※敬称略


*金華糖、金価糖の表記があるほか、氷菓子、砂糖菓子などとも呼ばれる。

参考
ローラ・メイソン著・龍和子訳『キャンディと砂糖菓子の歴史物語』原書房、二〇一八年。
ジェリ・クィンジオ著・富原まさ江訳『図説 デザートの歴史』原書房、二〇二〇年。
荒尾美代「砂糖の魔法にかかった人形たち〜第一回全国金花糖博覧会〜」(月報『砂糖類・でん粉情報』独立行政法人農畜産業振興機構、二〇一九年、同ホームページにも掲載)。
溝口政子「菓子類などの見舞品」(『疱瘡見舞品から大坂を覗く─「小児里う疱瘡扣」をめぐって─』唐澤博物館、二〇二二年)。

中山 圭子(虎屋文庫 主席研究員)

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