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ホーム > お・い・し・い・エッセイ 世界の菓子切手 村岡安廣(23/最終回)菓子切手あれこれ No.176

世界の菓子切手 村岡安廣(23/最終回)菓子切手あれこれ

ユニバーサル技能五輪国際大会の記念切手 平成15年発行のグリーティング切手 平成20年発行の冬のグリーティング切手(お菓子がいっぱい)

 「世界の菓子切手 村岡安廣」もいよいよ最終回。これまでご紹介していない日本の菓子切手を選び出しました。
 近年目立つのは、洋菓子が描かれた切手です。平成19年、ユニバーサル技能五輪国際大会を記念して発行された切手には、コンピュータプログラミングや左官、フラワーアレンジメント、自動車板金などとともに洋菓子製造を描いた2種が、10面切手シートの中央にデザインされています。
 左側の1種は生クリームらしき紙パックと製菓器具を持つ洋菓子技術者が「SKILLS(技術)2007」の金文字入りの白い玉状のケーキとイチゴのショートケーキを背景として描かれています。一方、右側の1種には製菓器具を使用しながら作業をする洋菓子技術者が淡い水色と線描きで表現されました。
 和菓子は登場しにくい状況の国際大会であり、パティシェ志向の高まりが示された切手となっています。
 季節ごとに定期的に発行されているシール式のグリーティング切手にも様々な洋菓子が紹介されています。
 まず、平成15年2月10日発行の80円切手5枚のグリーティング切手の右から2枚目に描かれた鳥の飾りをつけたイチゴのショートケーキです。「ケーキをどうぞ」のタイトルで、「ハート」「おめでとう」「寒いね」「寿」などのデザインとともに配置され、切手の下には小さなイチゴのシールも付属品として加わっています。
 平成20年12月8日発行の冬のグリーティング切手の背景には、冬の生活を楽しくするチョコレート様のデザインが登場し、平成22年1月25日発行の春のグリーティングの背景にも板チョコレートが示されました。後者はスイスやフランス、ベルギーで発行されたチョコレートの匂いがする切手と同型式ながら、匂いはしないようです。
 平成22年11月8日発行の冬のグリーティング切手で初めて発行された90円切手シートでは、右端が3種のケーキが並んだ切手となりました。手前からチョコレートケーキ、緑色のスポンジケーキ、イチゴのショートケーキで、それぞれに飾りが付けられています。

平成22年1月発行の春のグリーティング切手(チョコレート)。バレンタインデーを前に、板チョコを背景にしたデザイン

平成22年11月発行の冬グリーティング切手

平成元年7月14日〜9月3日に開催された「新潟 食と緑の博覧会」の記念切手。右下に描かれている同博覧会のマスコット「ダンちゃん」は、新潟の伝統菓子「笹だんご」から生まれたキャラクター

 残念ながら本格的な伝統菓子の意匠の切手はほとんど見当たらず、わずかに新潟の「笹だんご」に留まっています。しかも平成元年発行「新潟 食と緑の博覧会」記念のふるさと切手の右下に脇役として登場する小さな「笹だんご」です。
 今年初頭、日中国交正常化40周年を記念して、北京故宮博物院200選の展示が東京国立博物館にて行われました。その折、長い行列をつくった作品が、このエッセイで紹介した「清明上河図」でした(『あじわい』165号・189ページ参照)。
 中国文化が輝きを放った黄金期の一つである北宋時代に描かれた「清明上河図」には様々な情景が登場し、その中に食文化も数多く示されています。この時代から盛んになったといわれ、わが国にも伝えられて広く普及した餅や饅頭などの菓子のおいしさは、この図に描かれている人々の盛大なエネルギーの源泉となったものといえましょう。
 さらに再三、切手で登場したポルトガルに由来をもつ南蛮菓子も「西洋の骨董」といわれるポルトガルのお国柄から、象徴的な伝統文化の紹介となっています。そして、そのおいしさと感動が今の日本にも数百年の時空を超えて生き続けています。
 中国文化、南蛮文化の影響を受けながら、今や名実ともに世界一の菓子消費国となっている日本ですが、郵便切手をはじめ様々な国レベルの広報ツールは未整備で、文化としての菓子の認識は未だ弱いように感じられます。未来にわたり伝統菓子が生き続け、「おいしさと感動」が末永く伝えられるためにも、今こそ菓子という伝統文化に光を当て、菓子の持つ力を再評価すべき時でありましょう。

村岡安廣